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「エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ」

今回は、「エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ」という一冊について書いていこうと思います。この本は将来のエネルギー産業、特に電気の取引がどうなっていくのかについて書かれています。著者の中には東京電力在籍の方などもおられ、電力会社目線で見たエネルギー業界の変化について学ぶことができます。830の大学院での研究内容に非常に近く読み進めていくことができました。非常に専門的な本なので、電気の分野の基礎知識がないと読みにくいだろうなと思いますが、電気業界がどのようになっているのかをやんわりと知るためにはいいのかなと。正直、専門的すぎるのでおススメはしていません。なので、書籍紹介ではなく、今日の考え事カテゴリーで記事を書かせて頂きます。

目次

  • 概要
  • 考察
  • まとめ

概要

本書は3章構成になっています。1章ではエネルギー業界で起こっている変化について概要を、2章では各変化による影響の詳細を、3章ではその変化によってエネルギー業界がどのように変わっていくのかが書かれています。

第1章

この章の初めに、2つの未来の生活が描かれています。エネルギー業界の変化をうまくつかみ取り社会全体が最適化された未来と、エネルギー業界に適応できなかった未来。全く違う未来が待ち受けています。イメージしやすく、非常にインパクトの強い未来予想なので、読んでみて頂きたいなと思います。変化をつかみ、住みやすい社会を後世に残していきたいものですね。
そして、エネルギー業界で起きている5つの変化を紹介しています。その変化とは、人口減少・脱炭素化・分散化・自由化・デジタル化です。それぞれの変化について、2章で見ていきましょう。

第2章

人口減少 Depopulation

国内では人口減少が問題となっています。人口減少に伴ってエネルギー需要も減少してしまう事や過疎地域の電力システムの維持が問題視されています。

脱炭素化 Decarbonization

地球温暖化対策として注目されているのがパリ協定です。パリ協定では2050年までにCO2排出量を80%削減するという目的が立てられていますが、このためには脱炭素化技術の進歩が不可欠です。世界的にこの目標が掲げられているために、国家レベルでも、電力会社レベルでも脱炭素化を推し進めていくことは不可欠です。電力会社としては、発電の脱炭素化・非電力需要(化石燃料を燃やしてそのままエネルギーを使う分野)の電化に取り組んでいるそうです。

分散化 Decentralization

太陽光発電の普及によって、様々なところで発電を行う事が可能になりました。これまで大型発電機を用いて電気を作り送電していたのに対して、分散化が進んでいます。太陽光発電はカーボンフリーで環境に優しいエネルギー源として注目されていますが、発電量のコントロールの難しさや余剰電力などの様々な問題が浮上しています。こういった問題に対してどう対応していくのかは、エネルギー業界の中でも非常に大きな課題となっています。

自由化 Deregulation

電気業界は1990年代ごろから市場原理の導入され始め、自由化が進んできました。電力システムというインフラ設備は、インフラの構築を安定的に推し進めるために国家事業として行われてきましたが、インフラが一定水準を上回った現在では、市場原理を取り入れる事によって、無駄を省き、安く電気を供給できるように改善されています。しかし、電気が多くのものと異なる性質として、「保存ができない」という特徴があります。この特徴によって電力システムの自由化は大きな危険性をはらむことになります。安く電気を供給するために無駄な設備は省いていきたいのですが、余剰な発電システムがないと安定的に電気を供給するのが難しくなってしまいます。この経済性と安全性のトレードオフの関係が電力自由化の課題となっていくでしょう。

デジタル化 Digitalization

デジタル化によってエネルギーの見える化がさらに進んでいくことになります。冷蔵庫に、掃除機に、エアコンに、どれだけの電気を使ったのかが見えるかされていく。そういった中で、電気自体はサービスを提供するための手段でしかないことが認知されるようになりました。今は使った電気量に対してお金を払っていますが、顧客は電気自体が欲しいわけではなくて、モノを冷やしておきたい、部屋を涼しくしておきたいといったサービスを求めている。電気自体を購入する事が億劫になっていくのではないかと懸念されています。そういった中で、電気使用量に対して課金される時代は終わり、月額課金で電気をいくらでも使う事の出来るサブスクリプション化が進んでいくという考え方もみられています。830も近い将来電気使用量に対してお金を払う時代は終わると考えています。どういった料金システムが最適なのか、今まさに電力会社はこの問いを向き合っているのです。

第3章

起こりえる大きな変化に、エネルギー小売りの変革地域別料金システムの導入が挙げられています。

エネルギー小売りの変革

現在、電気代というのは基本料に加えて使用電気量によって決まってきます。なので、需要側の電気使用量が増えれば、電気会社の収益が大きくなっていくシステムです。しかし、環境問題といった観点から、電力会社は太陽光発電の導入が社会的に要請されています。すると、電力の自給自足が増えていくことになり、電力会社が売買に関与できる電気使用量が少なくなっていきます。電力会社が収益を保つためには電気料金を上げる事が必要になってきます。一方で、社会基盤である電力システムにおいて、電気料金を値上げしてしまうと生活困窮者の負担が大きくなるという観点から、電気料金を安くしないといけないという社会的要請も同時に存在します。なので、電気使用量が下がっていくのに電気料金を上げる事はできないという板挟み状態にある電力会社は収益が下がっていくことが懸念されます。収益を保つために、社会的要請に反して電気料金の値上げを行ったとしても、電気料金が高くなれば需要家は自分で電気を作った方が安いと考え、太陽光発電の導入を進めて電力会社から購入する電気を少なくできるようにシフトしていきます。すると、電力会社を介する電気使用量はさらに少なくなっていって、電力会社の収益は下がっていってしまう。これをデススパイラルとも言いますが、電気使用量に応じて電気料金を決定していく料金体制は限界にきているのです。
一方で、このような状態で電力会社が収益を上げられないから潰れていってもいいのかというとそういう問題でもないのが難しい所です。電力会社のこれからの仕事は、安定的な電力システムの構築です。自分の太陽光発電で発電できるから電力会社から電気を買わなくなっていったとしても、一週間雨の日が続けば電気が不足します。そういった緊急事態に電気を供給できるように発電システムを待機させておかないといけないというのが電力会社の役割になります。停電コストというのは非常に高い。一般家庭の停電であれば、少し不自由な生活を我慢すれば済むかもしれませんが、金融システムやビジネスの世界において停電が起こってしまえば、その影響は測り知れません。特に将来、IoTや電化が進んでいく中で停電がどれだけ社会にインパクトを与えるのかは、その影響力はどんどん大きくなっていくでしょう。これから電力会社はそういった緊急事態に備えるため、電力の安定供給を売る商売をしていかないといけない。
電気使用量によって課金していくシステムから、安定した電力システムに接続させてもらう事に課金をする料金体系に変わっていく。これがエネルギー小売りの変革です。

地域別料金システムの導入

現在は幅広い管轄の中で電気料金というのは一律に設定されています。しかし、今後人口減少が進んでいく中で、過疎地域の電力システムを維持するのは非常にコスパが悪くなっていきます。山奥に住む数十人のための電力システムを、大都市に住む人が払った電気料金で維持するというのは正しい姿なのでしょうか。人口減少が進む中で、都市に人口を集中させていかないと無駄にたくさんのインフラ維持費がかかってしまうという問題があります。だからこそ、地域別料金システムというものの重要性が注目されています。
山奥の方が電気料金が高く、都市部の方が電気料金が安くすることによって、人を都市部に移動させることができるのではないかと考えられています。お金があって山奥で自然の中で生活したいっていう人は山奥に住んでもいいかもしれませんが、お金が無いなら都市まで下りてきてくださいっていう仕組みになっていく。電力使用量課金から電力システム接続課金に変わっていくとお話ししましたが、一定の電力システムに対して接続されている世帯数によって電力システム接続課金の値段設定が行われる。接続世帯数の少ない山奥では電力システム接続課金額が高くなり、接続世帯数の多い電力システム接続課金額が安くなる。これが将来の電気料金の仕組みになっていくのではないでしょうか。

考察

上記のような、電力システム接続課金と地域別料金システムを考えた時に、資本主義的な価格競争は非常に危険な考え方だと830は考えています。電気の自由化を行って、市場原理を導入しないと無駄な設備増強や怠慢なシステム運営などが行われて電気料金が必要以上に高くなってしまうという問題はあります。しかしながら、電力システムにこれから求められていくのは安い電気料金以上に、安定的な電力供給なのです。この安全性と経済性を天秤に乗せて考えていくのは非常に難しいのですが、将来デジタル化がさらに進んでいく中で、安全性の重みがもっともっと高まっていくのではないかと830は考えています。安全性という観点を考えた時に、必ずしも市場原理を取り入れなくとも、昔のように国が取り仕切って電力システムを管理するのでもいいのではないかなと、それも一つの案として残しておくべきなのではないかなと感じています。将来の状況を勘案した中で、停電リスクというものをしっかりとコストとして評価していくことが求められています。

まとめ

今回は、「エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ」という一冊を参考に電気事業を中心としたエネルギーについて考えてきました。太陽光発電や蓄電池の導入が個人レベルでも検討されるようになった現在において、どのような背景でそれらが求められているのか、今どのような問題が懸念されているのか、将来どのようなシステムになっていくのかをなんとなく感じてもらえれば幸いです

会社から読むように推薦された本でしたが、まさに830の研究対象の範囲だったので、とても興味深かったです。これからエネルギーがどのような仕組みになっていくのかに注目しながら、その中でしっかりと役割を果たしながら、最適な社会設計に携わっていきたいと考えています。

今回も最後まで読んで頂きありがとうございました。
今後も宜しくお願い致します。